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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)757号 判決 1982年5月28日

上告人

日本相互住宅株式会社

右代表者

塚本三千一

被上告人

株式会社斎藤商会

右代表者

斎藤誠

右訴訟代理人

長岡壽一

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人の上告理由について

原審は、(1) 第一審判決は、昭和五六年二月二四日午前一〇時の口頭弁論期日において言い渡され、同日、当事者双方の訴訟代理人に判決正本が送達された、(2) しかるところ、控訴期間内である同年三月五日、同日付で上告人使者の肩書を付した白山一彦の署名捺印のある控訴状(以下「第一の控訴状」という。)が上告人代表者名義の同日付委任状とともに原裁判所に提出された、(3) 第一の控訴状に上告人使者とあるのは、当初訴訟代理人と記載されていたのが訂正されたものであり、また、委任状の委任事項欄には、当初は訴訟権限を委任する趣旨が記載されていたが、のちに控訴状を提出する趣旨に訂正されたものである、(4) その後、控訴期間を経過した同年三月二六日に至り、改めて上告人代表者の署名捺印のある同年三月五日付控訴状(以下「第二の控訴状」という。)が原裁判所に提出された、との事実を確定したうえ、右事実関係のもとでは、第一の控訴状は、控訴期間内に提出されたものではあるが、使者の署名捺印があるだけで、控訴状の作成名義人の署名捺印ないし記名押印がないから、それ自体有効な文書と認めることはできず(第二の控訴状の提出によつて第一の控訴状が有効となることはない。)、また、第二の控訴状は、控訴期間経過後に提出されたものであつて、上告人の責に帰することのできない事由によつて期間を遵守することができなかつたことについての主張、立証がないから、いずれの点からみても、適法な控訴提起行為があつたものとはいえないとし、本件控訴を却下している。

しかしながら、第一の控訴状と上告人代表者名義の委任状とを合わせて一体的にみた場合には、上告人が第一審判決に対して控訴を提起する趣旨が看取されるのみならず、右委任状における上告人代表者の記名押印をもつて第一の控訴状の瑕疵を補完していると解しえられないではなく、更に上告人代表者の署名捺印のある第二の控訴状の提出によつて第一の控訴状の瑕疵が補正されたものと解することもできるから、他に特段の事情がない限り、第一審判決に対しては控訴期間内に上告人から適法な控訴の提起があつたものと解するのが相当である。

したがつて、原審が前記のような理由で適法な控訴提起行為があつたとはいえない旨判断したことは、訴訟行為の解釈を誤つた違法があるものといわなければならず、右違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。右と同旨に帰する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、更に審理を尽くさせるため本件を仙台高等裁判所に差し戻すこととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(宮崎梧一 木下忠良 鹽野宜慶 大橋進)

上告人の上告理由

原判決の判断に判決に影響をおよぼすことが明らかな採証に疑義がある。

すなわち、原判決の理由によれば「控訴人使者(当初控訴代理人と記載したものを控訴人使者と訂正)の肩書を付した白山一彦の署名捺印のある控訴状は控訴期間内に提出されたものではあるけれども、有効な文書と認めることができない不適法な控訴状といわねばならず、その瑕疵を補正する余地は全くない。

したがつて、控訴期間中に改めて、控訴人代表者または弁護士の資格を有する訴訟代理人の作成名義による適式な控訴状が提出されない限りは、適法な控訴提起行為があつたということは認められない。」と、なつているが、白山一彦が昭和五六年三月五日に仙台高等裁判所に控訴状を提出した際に、事件係書記官が、提出の「控訴状および委任状」の記載事項に一部不備な箇所があるので、訂正しなければ、控訴期間中の適法な控訴状として受理できないと指摘され、書記官の指示通り「控訴状」に当初「控訴代理人」と記載したものを「控訴人使者」と訂正、また「委任状」の委任事項欄に「控訴申立に関する一切の権限」と記載したものを「控訴状を提出する件」と訂正したものである。その時、書記官はこの控訴状であれば、適法なので控訴は成立するといつて、受付印を押して受理した。但し、受理する時に、書記官は第一回口頭弁論期日までに、控訴人代表者名義の署名捺印のある控訴状を提出するようにと白山一彦に指示した。

したがつて、白山一彦および控訴人代表者は控訴状は適法に受理されたものと理解していた。

原判決では「……提起の手続きにおいていづれの点よりみても不適法であり、その欠缺を補正することができないものというほかはないから、これを却下する……」としているが、控訴人は仙台高等裁判所の事件係書記官の指示の通り提起の手続きを行なつたものである。適法でない控訴状ならば何故に適法といつて受理したのか、真実、不適法な控訴状であるならば、受理する必要はなく、控訴期間内に控訴人代表者名義の署名捺印のある控訴状を提出するようにと指示すれば足りたことである。

同一裁判所内にて、事件係書記官は適法な控訴と認めて控訴状を受理したが、裁判官は適法な控訴提起行為があつたと認められないと判決した。

原判決が認められることになるとすれば、平等であるべき裁判所が控訴人が明らかに不利になることを承知で、不利になるような補正及び指示をしたことになり、これは重大な問題である。

したがつて、原判決はとても受け入れることができないので上告した。

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